バイオテクノロジーという言葉に憧れ、農学部を志望した。合否発表の日、自宅で待機するのが居たたまれず、気晴らしにと父と上野動物園へ出かけると、ふれあい広場にいた牛が私に微笑んだ気がした。「畜産学科も悪くないかな」と思ったのを今でも覚えている。帰宅してみると合格したのは畜産学科だった。

東京で生まれ育った私と畜産業界との関わりはここから始まった。振り返れば、もう20年になる。業界に寄り添う生活が人生の半分を超えた。卒業後は肉牛専門誌、食肉業界紙の記者として国内外の家畜の生産現場、食肉処理施設、スーパーの精肉売り場、ホテル、レストランまで食肉流通の全過程を取材してきた。

この間、BSE、鳥インフル、口蹄疫などさまざまな問題が生じた。建設的な対話がないまま消費者の不安が実態以上に膨らみ、消費不振を招くことに心を痛めた。誤った報道に「どうせ伝わらない」と沈黙していては、歪められた情報しか伝わらない。それは業界にとっても、消費者にとっても損失だ。

子を持つ母の立場を含め、「業界と消費者との架け橋になりたい」と考え、会社員を辞めた。現在は「人とお肉をつなげる」ことをテーマに、お肉に関する執筆や畜産物のブランディングなどをサポートしている。

消費飽和の時代といわれ久しい。購買しない訳ではなく、消費スタイルや価値観が多様化したのだ。畜産物でも商品そのものより、背景にあるストーリーや体験を共有することに価値を見出し、対価を払うようになった。ブランド化には定時定量が不可欠とされてきたが、消費ニーズが細分化された今、量だけを追求する時代でもなくなっている。どこの店でも揃う商品より、そこでしか手に入らない価値を消費者は求めている。

私の願いは「生産」「流通」「販売」「消費者」の各々が商品価値を共有することで適正価格・適正利益を保ち、再生産可能な仕組みを創り上げること。小さな環でも実現し、お肉をより豊かに楽しく囲むシーンを増やしていきたい。日々の活動を通じて感じたこと、業界のトレンドをお伝えできたら。一年間、お付き合いください。(全国農業新聞2016.4.8付)