昨今の赤身肉ブームを受けて、穀物肥育とは一味違う『ニュージーランド牧草牛』の価値が再評価されている。南半球の島国ニュージーランド(以下、NZ)は豊かな水資源と温暖な気候風土により、国土の半数近くが羊や肉牛生産、酪農用の牧草地帯。人口の約7倍の家畜が飼養される。

牧草の成長にあわせて家畜を移動し、牛が食べ残し丈の短くなった牧草を羊に食べさせながら自由に放牧。肉牛の99%が牧草飼育で生産され、マメ科、イネ科など栄養価の高い牧草で育つため成長ホルモンや抗生剤の使用を必要としない。アンガス種など英国系肉用種の比率が高く、その味わいの良さと極めてナチュラルな生産体制は世界市場で高く評価され、日本でも提供店が増加している。

NZは世界で最も人口密度の低い国の1つで、輸出依存度が高く、畜産は貿易収支の4割を占める基幹産業だ。生産量の8割は北米、EU、アジアなど100カ国以上の海外へ供給され、牛肉は世界第5位の輸出国。輸出立国であるがゆえに政府主導で厳重な防疫体制が構築され、口蹄疫、BSEなどの重大な伝染病が発生したことはない。

農場から食肉加工・流通に至るまで政府が統括する監査制度で管理され、農家が家畜を出荷する際には「家畜飼育履歴申告書」の提出が義務付けられる。申告書には家畜の移動・治療履歴などの情報までが網羅されている。

殺虫剤や家畜医薬品の使用方法まで細かな規制があり、抗生剤は治療目的にのみ使用が許可され、予防や成長促進としての使用は認められない。抗生剤を投与した場合は農場主と獣医師に記録申告が求められ、90日の休薬期間を経てと畜が可能。申告書をもとに治療履歴のある食肉は流通過程で残留検査が実施される。

日本では牛トレーサビリティ法により個体識別で管理されるが、治療履歴などの情報開示は任意だ。数年前から八重山の繁殖農家の有志と子牛の治療履歴等のカルテを出荷時に添付する取り組みを続けているが、末端により近い肥育に比べ、一般的には繁殖農家では履歴開示に消極的なケースが散見される。TPPを視野に農畜産物の輸出促進を図り、海外市場へと打って出ようとする日本にとってNZに学ぶべきことは多い。(全国農業新聞2016.6.10付)