2018/04/26

全国農業新聞/子牛価格の高止まり

子牛価格の高止まりが肥育農家の経営を圧迫している。出荷までに長い期間を要する肉用牛は相場の変動リスクが大きく、長期的な視点なしに持続的な経営は難しい。素牛導入コストの安定化は肉用牛経営にとって最大の課題ともいえる。

島根県益田市の松永牧場は和牛繁殖肥育一貫体制を確立、酪肉複合経営を手がける。グループ総飼養頭数はメイプル牧場、萩牧場(山口県)を合わせ約1万1千頭(2018年2月末現在、うち和牛繁殖雌牛1300頭)。年間出荷頭数は黒毛和牛1200頭(去勢750、雌450頭)、交雑牛1400頭。

肉牛専業だった同社がメイプル牧場を設立し、酪農に本格参入したのは05年。繁殖農家の廃業などで全国的な子牛の供給不足に陥ることを先見し、10 年以上前から素牛を安定調達する仕組みを構築した。

メイプル牧場では搾乳牛1667頭を飼育する。一産目には受精卵移植で和牛を、二産目以降は交雑種を種付けし、年間800頭の子牛が松永牧場へ肥育素牛として供給される。さらに17年には浜田メイプル牧場を新設し、今年4月から導入をスタートした。搾乳牛1100頭、繁殖雌牛200頭を飼養する計画で、稼働すれば素牛供給量は倍増することになる。

牧場内の専用プラントでは食品残さを利用したエコフィードにも取り組む。残さといっても、焼酎粕、おから、そうめん、バナナなど、人間が食べて遜色ない状態のものばかり。飼料コストの低減と牛肉の食味向上にもつなげている。

西日本最大のメガファームに機械的なイメージを抱きがちだが、モリアオガエルが生息し、夏には満天の星のように大群の蛍が輝く神秘的な森の中に松永牧場はある。20年前から消毒剤、除草剤の散布を中止したことで農場周辺の森林の生態系が蘇ったという。

牛と付き合い続けるために追求した合理的な牛舎は、現場に根ざした独自の発想が結実したもの。徹底した省力・効率化を追求し、再生産可能な経営を実践する目当ては「自然の生態系を壊さずに、孫の世代まで安心して食べられる牛肉づくり」(松永直行専務)とじつにシンプルだ。

コラム一覧へ