2019/02/26

全国農業新聞/焼肉店の二極化

肉ブームと言われ久しいが、近頃は二極化の様相を強めている。お客が自ら焼く従来のスタイルと違う、肉の部位やカットに合わせて最適に焼いてもらえる「よろにく」、「なかはら」などの高級焼肉店が人気を博している。

和食懐石をベースにした「にくの匠 三芳」、「西麻布 常」といった肉割烹も増加中だ。トリュフやキャビアなど贅を尽くした食材をふんだんに使った食事をコースで2万円前後から提供する。あらかじめプレミアムな年間シートを購入するような会員制の業態も登場した。

詰まるところ単価3万円以上の予約困難店が人気で、その席の発売日に電話やインターネットで必死に予約する。もはやその店で味わうことよりも予約を勝ち取ることが目的化しているように感じるほどの過熱ぶりで、インバウンド客にも同様の動きがみられる。

高級店にはそれなりの裏付けが必要で、和牛であれば雌、但馬系などの希少性の高い商品を提供する傾向にある。また、産地銘柄よりも、生産者独自の味へのこだわりを打ち出した特定の原産者ブランドを扱い差別化する店も増えてきた。

こうした高価格帯の業態が流行る一方で、食べ放題チェーンや立ち喰い焼肉の「治郎丸」のような低価格業態も健闘している。「治郎丸」は銘柄牛を1枚売りすることで提供単価を下げ手軽さをアピール。1皿分の重量に換算するとけして安いとは限らないが、消費者は単に安さを求めているのではなく“手の届く贅沢感”を楽しんでいるようだ。

従来の焼肉チェーンでは「安さ」と「量」が追い求められてきたが、最近では低価格業態であっても提供方法や盛り付けの工夫も競うポイントになってきた。

インスタグラムなどSNSの普及により、自らの体験を仲間と共有することが外食の目的の1つになった。「予約困難店を利用できたこと」もその1つ。モノからコト消費へと移行している象徴ともいえよう。

二極化の間で中間価格帯の業態が苦戦するという構図が生まれているが、価格の中途半端さではなく、誰かと共有したくなる体験、価値観が問われているのかもしれない。

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