2018/03/01

全国農業新聞/適サシ肉宣言

東京浅草の老舗すき焼き店「ちんや」が「過剰な霜降り、5等級を使用しない」という適サシ肉宣言をして1年。メディアへの露出は40回を超え、和牛の霜降りを過剰と感じる人が少なくないことがみてとれる。和牛関係者は真摯に受け止めるべきであろう。

だが、適サシ肉とは、あくまでちんやよる、ちんやのための提供すべき理想の牛肉。5等級でもうまい牛肉はある。私は牛肉の美味しさを決定付ける一番の要素は血統だと考えている。血統で脂の融点、赤身の旨みは大きく変わる。

肥育期間の長さも大事だ。血統を問わず長く飼うことで脂の融点は低下する。1ヶ月長くなるごとに、脂の融点は4%程度下がるといわれる。長く飼うことで赤身肉に含まれるアミノ酸も蓄積する。アミノ酸は、牛肉を加熱した際の、メイラード反応に欠かせない。

餌も大切だ。そして、性別。雌牛と去勢には明らかな違いがあり、雌牛独特の甘い香りは去勢にはないし、筋繊維も雌の方がきめ細かい。だからといって雌だけが良いわけでなく、去勢の方があっさりして良いと表現する人もいる。

嗜好性は人それぞれ。脂っこい霜降りが好きだという人もきっといる。大切なのは選択肢があることだ。しかし、日本の黒毛和牛は、生産性、採算性が追求された結果、全国的に同じような血統になり、個性がなくなってしまった。

もはや仕入れ段階においても選り好みすることが難しくなりつつある。霜降り一辺倒で改良が進み、今、5等級は希少ではなくなった。でも、日本に流通する多くの牛肉は牛枝肉取引規格に基づき価格が形成される。生産も流通も「格付」を基軸に生活している人がほとんどだ。

だからこそ、正面切って5等級を否定する宣言が与えた影響は大きかったのだろう。4等級で仕入れた肉は必ずしも5等級よりも安く販売しなければいけないのか。そんなことはない。建値市場で評価されなくても、価値ある牛肉と認められさえすれば、5等級の牛肉より高い値段でもお客はつく。目利きの真価が問われる。

自分にとっての美味しい牛肉はどんな肉なのか。

こんなシンプルな答えにも窮する状況こそ、適サシ宣言が過熱した理由のようにも感じる。

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