2019/07/30

全国農業新聞/黒毛和牛への消極的な意見から見える課題

黒毛和牛が本格的に輸出されるようになり約10年が経過した。2018年の牛肉輸出量は3560t、輸出額247億円まで拡大。いまや世界40カ国以上で“霜降り”が食されるようになった。その一方で日本国内での黒毛和牛の人気はどうだろうか。

「高級感」「華やか」「インスタ映えする」など,ポジティブなイメージがあるものの、黒毛和牛を「たくさん食べたい」、「塊ステーキで食べてみたい」という人は多くはなさそうだ。

むしろ「一口、二口で十分」、「脂が多過ぎてしつこい」、「食べた後、胃もたれする」など、消極的な意見を聞くことも少なくない。とくに近頃では、「赤身の方が好きだ」「黒毛和牛のようにサシがある肉は年齢的に、体質的に食べるのが厳しくなった」という意見を聞くことが増えた。

黒毛和牛が大好きな私としては残念でたまらない言葉だが、かく言う私も黒毛和牛の試食サンプリングで「脂っこくて飲み込みにくい」と感じることが多々ある。

食べにくくなったのは年齢だけが理由だろうか。けして年齢や体質だけが要因ではないと考えている。かつて日本の黒毛和牛は農耕用に飼われていたものを食していた。しかし、現在では効率的に早く肥らせ、多くの霜降りを入れるための育種改良が進んだ。

その結果、黒毛和牛の枝肉重量は大きくなり、肉質等級4、5等級の割合が増え、BMSNo.12も珍しくはなくなった。出荷月齢も短期化が進んだ。ただ、効率を追い求めた代償として、失ってしまったものがあるようにも感じる。

霜降りの量を追求したばかりに、見た目重視のサシになり、本来の霜降り美味しさ、脂の美味しさ、赤身の旨み、和牛が本来持つべき「香り」を手放してしまったのではないかと思うことがある。

もちろん美味しさを目指し日々努力する生産者がほとんどだが、各地を取材していると「和牛は高価だから」と言う理由で自分では味を確かめず、自分が作ったという理由だけで「美味しい」と言い切る人は少なくない。

そもそも牛肉の美味しさはどのような要素で構成されているのか。次回以降、黒毛和牛の美味しさについて考えてみたい。

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