人口216人に対し10倍以上の牛が生息する牛の島、黒島。石垣島から南南西に17キロ、石垣港からフェリーで30分ほどに位置する。外周12kmほどの小さな島に約2860頭の牛が飼養され、その形からハートアイランドとも呼ばれる。
島のいたるところでのどかな放牧風景が広がり、毎年2月に開催される「黒島牛まつり」が有名だ。島の住民の多くが和牛の繁殖生産で生計を立て、繁殖農家は約50戸、1戸あたりの母牛頭数は平均40頭。隔月開催される黒島家畜市場には毎回約130頭の子牛が取引される。
高齢化により戸数は減少傾向にあるが、若い世代を中心に増頭意欲は強い。背景にはこの数年で子牛価格が高騰したこと。2013年に44万円だった黒島家畜市場の子牛の取引価格は2017年には70万円まで上昇した。
また地理的にも優位性がある。黒島では子牛や母牛のエサとなる牧草を年に5回も刈り取ることができ、通年放牧できることが大きな強みだ。
3年ほど前からは牧草コンテストもスタートした。各農家の牧草や草地の土壌の成分を調べ草地の管理技術と粗飼料の自給率の向上を図っている。
「黒島ではチモシー並みの良質な草がとれる。若刈りの穂はタンパクが豊富で子牛用に適しており、刈り取る時期によって子牛用と母牛用に使い分けている。粗飼料多給の子牛を育てることで肥育農家が素牛導入後に管理しやすくもなる」。
こう話すのは下地牧場の下地太さん。現在、母牛110頭、採草地20ha、放牧地10haを保有し、母牛200頭体制を目指し増頭を進める。一方で、「小さい家畜市場だからことスピード感を持って購買者である肥育農家のニーズに応える必要がある」とし、黒島家畜市場の活性化のために島全体の農家の底上げにも力を注ぐ。
10年前に比べ改良のスピードも早くなった。受精卵移植による新たな血統の導入にも積極的だ。かつて黒島では輸送コストの問題などから子牛が買い叩かれることもあったが、最近では若手を中心とした努力が結実しつつある。本土の繁殖農家が繁殖用に子牛を買い付けに島へ来ることもあるようだ。「繁殖雌牛を本島から購買してもらえるレベルにしたい」と意欲的だ。