2018/08/02

全国農業新聞/米中貿易戦争の影響

米国が鉄鋼・アルミニウムに追加関税を課すと発表して以降、日ましにエスカレートする米中貿易戦争―。米国は対中貿易赤字(2017年の物品貿易で約3752億㌦)だけではなく、中国の知的財産権の侵害、安全保障上の問題を主張。通商摩擦の範囲を超えているだけに、事態の長期化は避けられない。世界経済全体に先行き不安が広がっているが、この問題は世界の豚肉貿易を激変させるかも知れない。

中国は米国産豚肉の関税(従来12%)を4月2日に25%上乗せ、7月6日にはさらに25%追加した。メキシコも6月2日に米国産豚肉4品目の関税(従来はNFTAで0%)を10%に、7月5日には20%に引き上げると同時に、FTA未締結国などからの輸入で無税枠35万㌧を創設。カナダ、EUも報復関税措置を打ち出した(豚肉は含まず)。

米国の2017年の豚肉輸出量(内臓含む)は約245万㌧。主な輸出先国はメキシコ80・1万㌧、中国・香港49・6万㌧、日本39・4万㌧、カナダ20・8万㌧、韓国17・3万㌧。この5カ国で207万㌧に達する。今年1~5月の輸出量は全体で約3%増だが、中国・香港向けは18%減、カナダ向け5%減。メキシコ向けは6%増だが、報復関税実施が6月からで、実際の影響はこれから表面化する。

米国の食肉輸出団体は報復関税による豚肉産業の損失について、報復関税が1年間続いた場合、対中国は価格低下による損失が11億4千万㌦(うち輸出量の減少による損失1億4750万㌦)、対メキシコは同8億3500万㌦(同2億1500万㌦)と試算。

メキシコの輸入豚肉市場では米国が90%のシェアをもつが、今回の無税枠でEUの60工場が認定され、カナダはNAFTで元々無税。EU、カナダの「漁夫の利」を唱える向きもあるが、20%の関税差があっても、輸送面を含めてEUが米国の生産コスト力に対抗できるかどうかは未知数。カナダの豚肉産業は価格形成でも米国と繋がっているため単純ではない。

問題は米国の豚肉がどこへ向かうのか。米国の今年の豚肉は増産で価格が低下傾向にあり、輸出が停滞すると暴落する懸念がある。米国農務省は7月24日、貿易紛争で損失を受ける農畜産物の生産者を支援するため、120億㌦に及ぶ3つのプログラムを発表した。豚肉生産者団体はこれを好意的に評価しつつも、抜本的解決を求める姿勢を強めており、その延長線上には日米FTAへの圧力が一段と強まってくるだろう。

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