美味しくお肉を食べてもらい「笑顔の環を繋げていきたい」との想いで3年ほど前からBeef Smile Projectを始めた。その象徴としてオリジナル銘柄「美笑牛」(びしょうぎゅう)を開発。生産・流通・消費の各段階で真の価値を共有し、再生産可能な仕組みを創り上げることを目指し、従来にはないチャレンジをしている。
品種は交雑種だが、血統、肥育期間などに高い基準を設けることで美味しさに徹底してこだわった。特殊な規格であることから、銘柄の定義に肉質等級は盛り込んでいない。1頭の牛を生産するために必要な原価は肉質等級に関わらず一定だ。どの格付でも全量買い受ける姿勢がなければ、コスト的にリスクがある商品を生産者が継続的に作ることは難しい。
取引価格は原則、コスト積み上げで算出することを説明した上で提案している。卸売市場の建値をスライドする従来の値決めでは、お店やレストランは相場上昇時を想定した提供価格を設定することになり、結果的に適正価格とのギャップが生じることがある。
美笑牛は繁殖からの一貫生産ではないため、素牛導入コストが急激に上昇する難しさもあるが、生産者と納品先の双方の意識共有、理解醸成を図ることに尽力し、長期的視点で取引価格を設定。丁寧な説明営業を続けてきた結果、オークラフロンティアホテル海老名、鉄板焼銀座おのでらなど外食を中心に採用され、小さくても着実に信頼の環が広がりつつある。
そして、先月25日にグランドオープンしたショッピングセンター「セブンパークアリオ柏」(千葉県柏市)で小売初の美笑牛の販売が始まった。供給量が少なく、毎日売り場に並べることができない美笑牛を量販店で扱うことは難しいと考えていたが、「量は少なくても品質が良いものを展開する試験的な位置付け」で月に1〜2回の頻度で定期販売が決まった。
私のチャレンジは多くの人の応援、ご厚意で成り立っている。流通大手の話題店で打ち出してもらえることになり責任を感じている。1年後、2年後に「美笑牛」を指名買いしていただけるような地域に愛される商品に育ててもらえるよう丁寧に伝えていきたい。(全国農業新聞2016.5.13付)