肉用子牛の取引価格が「飛ぶ鳥を落とす勢い」で上昇の一途を辿っている。各地の家畜市場では100万円を超える高値取引が相次ぎ、2016年1月〜12月の黒毛和種の子牛価格(速報値)は、雌74万円、雄84万円。雌雄平均で79万円と前年実績を約15万円も上回り、4〜5年前に比べ2倍近い水準まで到達した。
高値の背景には、2010年の宮崎口蹄疫発生、2011年の東日本大震災を契機とした最大手和牛企業の破綻、高齢化等による離農が進んだことなどがある。繁殖農家戸数が激減したことで、子牛不足が深刻化。全国の子牛取引頭数は5年前に比べ5万頭も減少している。
子牛の売却益が増加したことで繁殖農家の素牛導入意欲は強い。また「繁殖用雌牛の導入促進を助成する自治体も多く、子牛価格の高騰を後押ししている」(市場関係者)。地域によっては30〜50 万円もの給付金が支給される事例もあり、ヒートアップの要因となっていることが指摘される。
牛枝肉価格の推移をみると、高値傾向は続いているものの、国内消費が弱いこともあり、子牛価格ほどの勢いには及んでいない。素牛導入コストが大幅に上昇したことで肥育農家は経営が圧迫され、計画通りの素牛導入が難しい。素牛の安定調達を図るために大規模な繁殖事業に乗り出す動きも加速している。
こうした動きを受けて、繁殖牛の飼養頭数は減少に歯止めがかかりつつある。農水省の畜産統計(28年2月1日現在)の肉用種の子取り用雌牛の飼養頭数は前年同期比8600頭増の58万8100頭となり、6年ぶりの増加に転じた。
子取り用雌牛の飼養頭数が増加したことで生産基盤の回復が期待されるところだが、種付けして子牛が出荷されるまでには相応の時間を要し、子牛の出荷頭数に反映されるのは、ことし後半から来年にかけてとみられる。
このため、2017年も子牛高が解消される見込みは薄く、国内経済の先行き不透明感が強い中では、枝肉価格の上昇に消費が追いついてくるのか疑問視する声は強く、今後の動向が注視される。(全国農業新聞2017.1.13)