新型コロナウィルスは牛肉業界にも大きな影響を及ぼしつつある。中国をはじめ外国人観光客の宿泊キャンセルが相次ぎ、インバウンド需要は減退した。主要な輸出先の香港では感染拡大防止のためにマカオのカジノ営業を一時中止し、未だに半数近い施設は営業再開できていない。
インバウンドと輸出市場に依存していた和牛価格は高級部位の受け皿を失い大幅に下落。国内でもイベント中止、外食を控える動きが広がり、期待されていたオリンピックも開催が危ぶまれる事態で不透明感がさらに強まっている。
このウィルスは弱毒性で一部の感染者を除けば軽症ですむという。しかし、連日の不安を煽るような報道、首相の一斉休校要請は買い占め騒動などの社会的混乱を引き起こした。
感染症対策の是非はさておき、政府は国民とのリスクコミュニケーションが不足しているように感じる。適切な情報開示がないために実態以上の不安が膨らみ、経済に大きな損失をもたらしているのではないか。
リスコミには根気が必要だ。パニックを恐れず情報を包み隠さず開示し、わかりやすい丁寧な説明を続けること。絡み合った糸を解くように、様々な抵抗要素を解決する努力が求められる。
畜産物のブランド確立にも同様のことが言える。一貫性があり偽りのないストーリーをいかに伝え続けるか。「生産」「流通」「販売」「消費者」の各々が商品価値を共有するためには、それぞれの立場で議論を重ね、情報共有し歩み寄るための努力が不可欠だ。
「売れないから値段が下がる」。このロジックは、じつは消費者とは関係のないところで起きている。納得して購入していた商品への対価=価値は顧客にとって変わるものではない。
新型コロナウィルスで業界は危機的な状況にあるが、こんな時にこそサプライチェーンの真価が問われる。適正価格・適正利益を保ち、再生産可能な仕組みを構築することは容易ではないが、ぶれない信念を持って辛抱強く伝え続けていきたい。