これまで牛肉の美味しさについて書き連ねてきたが、美味しさを追求する肉牛生産が必ずしも適切な経営判断であるとは限らない。むしろ苦悩の始まりになるかもしれない。なぜなら但馬系の黒毛和種を長期肥育するためには大きな経営リスクが伴うためだ。
但馬系の黒毛和種は遺伝的に疾病リスクが高い上に、骨格が小ぶりで枝肉重量も小さい。日本食肉格付協会によると平成30年に取引された黒毛和種(去勢)の枝肉重量は全国平均で504.0kg。
一方、但馬系が多く出荷される兵庫県では450.2kgにとどまり、全国平均より50kg以上の開きがある。さらに増体系に比べ、但馬系は成熟するまでに長い肥育期間を要する。餌代や人件費等がかさむため収益性確保が非常に難しいのだ。
効率の観点でいうと精肉に加工してからも扱いづらさがある。脂の融点の低い肉は常温に戻すとスライスしにくく、作業効率はけして良いとは言えないし、アミノ酸を蓄えた肉ほど変色も早い。
これほどリスクが高くても美味しさを追求し、再生産可能な経営を確立するためには、流通販売との共通理解の醸成、共創の姿勢が不可欠になる。
美味しい牛肉づくりに限らず、肉牛生産には人それぞれの考え方、経営があり、尊重されるべきだ。ただし、その選択肢には一貫性がなければならない。
「一貫性があること=誠実であること」がとても大事だ。 自らの商品を伝えることに真摯になった時、伝えきれない理由、足りない何かがみえてくることが多いものだ。 「伝える」とは「一貫性があること」に尽きる。
うそ、偽りのない、魅力的なストーリーを一貫して語れる生産者がどれだけいるだろうか。なぜ霜降りを追求するのか。その答えが「高く売れるから」では、あまりに説得力に乏しい。
消費者ニーズが多様化する中、どのような商品をどのようなターットに向けて販売しようと考えているのか。つねに意識しながら流通販売との取り組みを図ることが重要だ。