2020/03/09

昔ながらの和牛づくり”に挑戦、炊きエサが生み出す希少銘柄「増田牛」

増田牛

群馬県高崎市で30年ほど前から肉牛肥育を行う増田畜産・増田順彦さんは、全国的にもまれな炊きエサを与えた希少銘柄『増田牛』を生産する。炊きエサとは、かつて松阪牛や近江牛などの産地でよく行われた技術。エサの保存期間が短くなるため品質管理が難しく、多頭肥育が一般的となった現在の肉牛生産ではほとんどみられなくなったが、増田さんは圧ぺんした大麦を2度蒸し上げ、仕上げの6カ月間にわたりを牛に食べさる。炊きエサを与えることで脂質は大きく変化し、透き通るように繊細で上質な脂になるのだという。

炊きエサは増田さんが「昔ながらの和牛の味」を追い求める中でたどりついた手法だ。転機が訪れたのは約15年前。まわりの和牛農家と同じようにサシを追求していたが、ある日、自社直営の焼肉店で自分の作った肉を食べてみて「脂がしつこくて量を食べられない」と思った。そんな頃、和牛専門卸の宮澤和裕さんと出会い、食べさせてもらった肉が良く仕上がった但馬系の肉だった。

「その時のカルチャーショックは忘れられない。“サシがあっても量を食べられる肉はある”ということが衝撃だった。宮澤さんとの出会いが自分の牛飼い人生を変えた」。

「自分も本物の肉がつくりたい」と、これまでの肥育方法を一切改め、和牛雌専門に切り替えることを決断した。そして、美味しい牛づくりを模索する中で聞こえてきたのが「昔の和牛の味が消えつつある」という言葉。では、昔はどんなつくり方をしていたのか。このことに真正面から取り組むことで、控え目ながらも存在感のある肉、『増田牛』をようやく誕生させた。

昔ながらの牛づくりのため、炊きエサのほかにこだわっている点は①血統と体型②愛情(手間を惜しまない)③飼料④月齢など。素牛は肉の脂質、味に高い優位性がある但馬系雌牛を選抜。秋田県や群馬県が主な導入先だ。平均出荷月齢は34〜35カ月。長期肥育することで脂の融点が低下し、赤身肉にコクがでてモモの美味しい肉になる。健康的にサシの入った牛に仕上げることが重要で、田沢湖から取り寄せた炭をエサに混ぜることで牛の腸内環境を整え、ビタミンコントロールをせずに健康に育てる。肉の獣臭も少なくなり、「増田牛は内臓肉も美味しい」と評価される所以だ。

増田さんは「肉にサシを入れる技術を競争する時代は終わった」と指摘する。「いま求められているのは、“いかに美味しい肉、脂をつくるか”に尽きる。大間のマグロよりも美味しい肉、本当においしいマグロの赤身に例えられるような味を牛肉で再現できたらと思う。アクが少なく、脂身だけで食べられるような脂質でなければ本物とはいえないのではないか。やはり長く飼った牛の美味しさには敵わない。32カ月齢の肉ではまだ脂っぽさを感じるため、34カ月未満の肉は売りたくないというのが本音。薄利多売の経営が厳しくなり、規模拡大だけで生き残れる時代ではない。コストを抑える努力は必要だが、増頭よりも内容の充実を図り、自信をもって消費者にお届けできる、自分にしかできない牛づくりを追求し続けたい。」

生産概要

農場増田畜産
代表者増田順彦
生産地群馬県高崎市箕郷町
品種黒毛和種、雌のみ
飼養規模肥育専門400頭
出荷頭数年間約200頭
出荷月齢34カ月齢以上
と畜場東京食肉市場

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