リアル店舗を新設、内食・中食マーケットへアプローチ
卸売を主業務とする株式会社エプリュッシェ(都筑区富士見が丘、赤峰哲也代表)は、日本各地の産直野菜や希少な伝統野菜を扱うこだわりの八百屋さん。 長年の経験に裏打ちされた目利き、農家さんとの関係構築により確かな品質を担保し、首都圏の有名ホテル、レストランなどプロのシェフが信頼を寄せる。
そんなエプリュッシェが横浜市営地下鉄「センター南駅」から徒歩3分、都筑区役所からほど近くに新スタイルの青果店をオープンした。1階の青果売り場に加えて、2階にセントラルキッチンを併設。安全で美味しい産直野菜を小売りするだけでなく、今後はデリカの販売も強化していく予定。
ホテルやフレンチレストランで調理経験があるスタッフが常駐し「旬の野菜の旨みや食感を存分に生かした総菜を提供していきたい」と話す。従来の卸部門にリアル店舗の機能を付加することで、新たに内食・中食マーケットへアプローチしていく。
フランスのマルシェを思わせる1階の店内には彩り豊かな産直野菜がずらり。カラフルなプチトマト、ミニロメイン、飛騨の赤かぶ、まるで畑にいるような錯覚に陥るパティキャロット、ピンと元気な香草たち。眺めているだけでわくわく、ときめきを覚える。
お花屋さんのようなガラス張りの大型冷ケースには一般のスーパーマーケットでは目にすることができない珍しい野菜が咲き誇る。ショーケース内で風を対流させることで葉物野菜の鮮度感が長く維持されるそう。
防腐剤、ポストハーベストフリーの西洋品種を国内で生産
同社が扱う野菜は国内産に特化し、このうち産直野菜が8割を占める。赤峰社長はヨーロッパの野菜に明るく、かつては輸入野菜も様々な品種を扱ったことがあったそう。
しかし、輸送で時間が経過しても変色せず、萎れない輸入品に違和感を覚えたことから国内の農家さんに西洋の品種を紹介し情報を共有。農家さんにリクエストすることで、現在では多様な西洋品種を防腐剤、ポストハーベストフリーで国内調達している。
エプリュッシェでは長年にわたり産直の取り組みを強化してきた。市場から調達する青果物も一部あるが、実際に農家さんを訪ねて生産過程を確かめた上で取引している。
産直のメリットは確かな品質を鮮度の良い状態で安定的に調達できること。また需給バランスにより価格変動が大きい市場調達に比べ、一定の価格で供給することができる。例えば正月に高騰してしまうレタスも日頃と変わらない価格で納品することが可能だ。
ただ、当然のことながら逆の事態も起こりうる。コロナ禍のように飲食店が休業し需要が激減することがあれば、契約していた野菜は売り先を失いだぶついてしまう。さらに市場価格が暴落していても従来通りの価格で買い支える必要がある。
これをデメリットと捉えるのかどうかは使い手次第になろう。 価格を重視するのなら、その都度、”何より安いもの”を市中から拾えば良い。しかし、確かな品質を継続的に確保するためには産直取引が不可欠だ。
国内で実績がないような新しい品種、減農薬・無農薬野菜、こだわった栽培方法の農作物を生産するためには通常よりも手間やコストかかり、そのリスクは農家さんにのしかかる。出口を保証しないままに只々「作って」と依頼するだけでは、農家さんが特殊なものやこだわった商品を作り続けることは到底不可能だ。
これは、私がプロデュースする「美笑牛」(https://meat-up.jp/bisho/)の考え方にも通ずること。血統を指定し、性別を雌牛だけに絞り、長い肥育期間を設けた美笑牛は、従来の牛肉に比べて時間も生産コストもかかってしまう。3年という長い年月もの間、エサ代と人件費は容赦なく生じていく。
にもかかわらず、出荷する際に市場相場が安いからといって取引価格が変わり、コスト割れする仕組みでは農家さんにとってあまりにリスクが大きい。良いものを作り続けられる訳がない。
だからこそ美笑牛は食肉卸売市場のようなセリに上場せず、どんな時でも年間一本価格で相対取引している。 マーケット環境により販路が縮小するなど難しいこともあるが、育て上げられた美笑牛はどの牛も同じようにコストも手間もかかっている。それはきっと青果物も同じことだと思う。
安全で美味しいデリカ、簡便野菜で需要掘り起こし
少子高齢化が進み国内農家の担い手が少なくなる今、より良いもの、こだわった商品を作れる農家さんは今後さらに減少する可能性がある。円安が進み、世界の食糧マーケットで新興国に買い負けする日本人がこの先も良質で安全な食材を安定調達できる保証はどこにもない。
品質を選ばなければ買い手のわがままが通じる世界はまだあるかもしれないが、本当に良いものを長期的に調達し、志ある農家さんと取り組む機会を得ることは、どんどん難しくなっていくかもしれないのだ。
内食・中食需要までを網羅する新店舗は、美味しくて安全、独自性の高い野菜を扱うエプリュッシェが今後も農家さんとの取り組み、産直を継続強化するための新たな一歩でもある。
オープンから約3ヶ月、色とりどりの野菜に近隣住民らが足を止める姿があった。隣駅でレストランを経営するという店主が初めて目にする海外品種に目を丸くする。
いつの時代も自分の子どもや家族には安全で美味しいものを食べさせたいもの。皮むきや下ごしらえの済んだ簡便野菜、素材の旨みを感じられるデリカは有職、無職を問わず主婦から高い支持を得るだろう。味の濃い旬の野菜ペーストは離乳食にも高齢者の介護食にも最適だ。
リアル店舗の稼働は様々な気づきをもたらし、より細やかな顧客ニーズが反映された商品開発につながることだろう。エプリュッシェベジタブル(エプベジ)の今後が楽しみだ!