2016/10/17

片平梨絵の食肉ウォッチ(7)気を付けたいドライエイジングビーフの取り扱い/全国農業新聞

先日、ドライエイジングビーフの勉強会で講師を務める機会があった。飲食店関係を中心に予定人員を超える応募があり、熟成肉への関心の根強さを改めて感じた。いまや大ブームとなった熟成肉だが、取り扱いを間違えれば腐敗につながる。提供店は品質や安全性を損なうリスクを十分に理解した上で提供する必要がある。

食肉の熟成は①ウェットエイジング②ドライエイジングに分けられる。真空包装の無酸素の条件で熟成する①に対し、②は無包装で空気にさらされた状態で「温度」、「湿度」、「風気」を管理し冷蔵で一定期間、貯蔵する。

②は①に比べてビーフフレーバーが強く独特の風味をもたらすが、 肉の表面にカビ、変色が生じる。中側の赤身部分の菌数は低く、表面のカビが適切に除去されていれば問題なく供給できることが実証されているが、表面のカビが最終製品に付着すれば、その肉は細菌に汚染される。

このためナイフの適切な消毒をはじめ、まな板の一次処理、二次処理、最終トリミングなど各段階に分けて、別のものを使用するなど徹底した衛生管理が求められる。

O‐157やBSEの国内発生以降、食肉業界ではHACCPやSQFなどの食品安全マネジメントの考え方が広がった。食品安全の観点で語れば、ドライエイジングは逆行する動きともいえる。ドライエイジングブームは「美味しさの提案」に回帰した点では歓迎すべきだが、技術・ノウハウの蓄積のない店や企業が安易に取り組むとリスクが大きい。

平成23年に生食用食肉の規格基準が設定され、食肉は原則、加熱して提供されるようになった。しかし、最近は店独自の判断で加熱条件が十分とはいえない料理を提供するメニューが散見される印象を受ける。菌の増殖リスクが高いドライエイジングビーフでは食中毒につながりかねない。しっかりと加熱して提供する必要がある。

何か事故が起きてしまえば拡大したマーケットは消失してしまう。需要が縮小することによる経済的損失はもちろんだが、食肉を囲む楽しい1シーンまで消えてしまうのは悲しいこと。適切な管理の徹底と啓蒙により、エイジングビーフを安全に美味しく味わいたい。(全国農業新聞・食肉ウォッチ10月7日付)

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