2018/11/11

放牧酪農で町の活性化、足寄・ありがとう牧場/片平梨絵の食肉ウォッチ(16)全国農業新聞

「町づくりには若者、よそ者、ばか者が必要だ」と話すのは、櫻井光雄さん。北海道・足寄町役場で約40年勤務後、一般社団法人びびっとコラボレーションを立ち上げ、代表理事として新規就農や半農半Xの希望者向けにサポートセンターを運営する。

市町村として日本一の面積(1400キロ平方メートル)を誇る足寄町は、山林に覆われた傾斜地が多く、人口は7000人ほど。寒暖差が大きく、長い日照時間が放牧環境に適していることから「放牧酪農」を柱に新規就農支援、町づくりを推進。放牧酪農による新規就農者はすでに15組誕生し、現在、3組の就農希望者が待機する。

足寄の酪農放牧の先駆的な事例が「ありがとう牧場」(吉川友二牧場長)。長野県出身の吉川さんは北海道大学卒業後、ニュージーランドで酪農を学び帰国し、2000年に足寄に移住。2001年に新規就農し放牧酪農をスタート。

現在は100ヘクタールほどある放牧地と採草地を活用し、放牧酪農により40~50頭を搾乳。放牧地は区画し、草の成長に合わせて朝、夕の搾乳後に牧区を順番に移動させ輪換放牧。農薬や化学肥料を使用せず、栄養価の高い草を牛に与える。

3〜4月の春に分娩を集中させる季節繁殖を行い、12月末には全頭を乾乳。草のない1〜2月は乾乳期にすることで通年放牧を可能にしている。1頭あたりの搾乳量は年間約5000kg。濃厚飼料を控えることで低コスト化が図られ、搾乳50頭の規模でも経営が十分に成立するという。

また、生まれた子牛のうち雄は牧草肥育により「サラダビーフ」として商品化し、インターネットで通信販売。2013年には搾乳舎に隣接したしあわせチーズ工房を開設。牧場の生産物を年に3回届ける会員制度(年14000円)を設け、顧客がついている。

少子高齢化による離農、過疎化が進む市町村では、新規就農を促す環境整備や支援の充実が課題だ。農水省によると、平成27年の新規就農者は約6万5000人で、新規参入者は3570人にとどまる。農業未経験者が安定した収入を確保し、就農支援として助成される5年後も経営を継続できるビジネスモデルの確立が定着の鍵。放牧酪農により町の活性化を図る足寄の今後が注目される。

コラム一覧へ