片平梨絵の食肉ウォッチ(5)/全国農業新聞/マンガリッツァ豚が日本上陸

“ハンガリーの食べられる国宝”であるマンガリッツァ豚が日本に上陸した。種豚ブリーダーの(株)しまざき牧場(本社:神奈川県厚木市)が生体で輸入したもので、精肉や加工品として輸入実績があったが、生体としての輸入は初めて。厚脂で味の良い豚として梅山豚、金華豚、アグー、サドルバックなどが国内で飼養され評価を高めており、マンガリッツアもその仲間に加わりそうだ。

マンガリッツァ豚は、ハンガリーの在来種で希少品種。正肉の7割が脂肪とされ、世界で脂肪の比率が最も高い厚脂の豚といわれる。「一般の豚肉よりも厚脂だが、スペインのイベリコ豚と同系統の豚とされ、オレイン酸の割合が高く脂の融点が低い。脂がおいしい点に魅力を感じた」(嶋﨑社長)。

輸入先はアメリカ・アイオア州の繁殖農家。雄2頭、雌8頭の計10頭が輸入し、雌のうち4頭は妊娠豚で宮城県の農場に搬入した。いずれも3代前までの血統を遡れる北米マンガリッツア協会の証明書が付いている。

増頭を図るため雌は残し、定期的に新しい血を入れながら、雄の去勢を肥育し、初出荷は来春以降を予定。マンガリッツァの特徴を引き出すため、F1ではなく純粋種で徹底的に改良を進める方針。本場ハンガリーで行われているように草地や林などで放牧する計画で、大麦、小麦のほかカボチャ、テンサイ、ナッツ等を飼料として与えることを検討している。

国内養豚では、飼料高、輸入ポークとの競合を背景に超多産系リーンタイプの母豚の導入が進む。「高い繁殖成績や発育性の良い豚がどんどん登場しているが、マンガリッツアの導入により豚肉の新たな付加価値の創造をめざす」とし、今後は町おこしなど地域活性につなげたいと考えている。

TPP発効を睨んで、規模拡大や生産の効率化により国際競争力を高める動きが加速するが、穀物飼料の大半を海外に依存する国内でコスト圧縮を図るのには限界もある。海外戦略の新たな切り口として、効率よりも品質に重点を置いた経営、付加価値を創出する取り組みが見直されている。(全国農業新聞2016.8.12付)

片平梨絵の食肉ウォッチ(4)/全国農業新聞/科学的根拠に基づいた適切な食育を

食育基本法が施行されて早10年余り。関連予算の増強に伴い、全国的に食育イベントが盛んに実施され、各種媒体やネット等でも食育に関する情報が溢れるようになった。しかし、その中には、科学的根拠に乏しいもの、不安を煽るような偏った見解もあり、残念に感じることがある。

例えば、全国に3万店舗以上もあるファストフード業態への批判。有職主婦が増え、時短調理や外食頻度が高まる中で、日常生活に身近なファストフードを、摂取してはいけないもの、悪いものだと説き伏せるのには少し無理があろう。

また、しばしば国産品VS輸入品の構図で論議される安全性。日本の食肉需給の約4割は輸入で、自給率を高めることは重要だが、「国産だから安全安心」という漠然とした国産の安全神話のような論調にも抵抗がある。輸入品に不安があるようなアプローチをしても、けして国産品の信頼性を高めることには繋がらない。

それが問われる一つは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの食材調達問題。グロバールGAPを基準に、国際認証されたマネジメント規格やHACCP対応が求められれば、現状のままでは日本産の食材はほとんど使えないことになってしまう。

どんな食品にもリスクはある。客観的な科学的評価に基づく安全に対し、安心は主観的だ。行政や供給企業だけに責任を委ねるのではなく、消費者もリスクについて理解し、自らが考えて判断する力を身につけること、その能力を子供のうちから育むための食育が大事だ。

食材の生産・流通過程や栄養を学ぶことも大切な要素だが、まず「感謝していただく」という気持ちを醸成したい。

娘が5歳の時に「いのちをいただく~みいちゃんがお肉になる日」(講談社刊)という絵本を与えた。熊本県の食肉センターに従事された坂本義喜さんの話。それまでは食べ残していた筋張った肉も食べるようになった。牧場や農場にも機会を見つけ連れて行き、牛の給餌や野菜の収穫をし、食卓でもその体験を語りあいながら生産者の思いなどを伝えている。(全国農業新聞2016.7.8付)