全国農業新聞/ダイエー子会社の鹿児島サンライズファームの繁殖部門

 流通大手イオン傘下のダイエーは、このほど黒毛和牛の繁殖事業に本格参入することを発表した。小売業が肉牛の繁殖事業に乗り出すのは初めて。

「昨今の子牛価格の高騰や繁殖農家の離農が深刻化する中、自社で黒毛和牛の繁殖肥育一貫体制を構築することで安定供給を目指す」(近澤靖英社長)という。 

 繁殖部門を立ち上げたのは、ダイエー子会社の鹿児島サンライズファーム(鹿児島県鹿屋市)。預託を含め約4800頭を肥育し、黒毛和種の雌牛に特化したダイエーオリジナルの「さつま姫牛」をブランド展開、直営店舗を中心に年間約3000頭を供給してきた。

 同社は1970年に設立以降、肥育専業だったが、この数年の間に子牛価格が倍近い水準まで上昇。素牛導入コストを販売価格に転嫁することは難しくなる中、自社で繁殖することで継続的に素牛を確保するのが狙い。自家産であれば、単純に1頭80万円の素牛を、生産コスト分の50万程度で調達できることになる。

 すでに繁殖部門では、2016年12月から月3頭のペースで黒毛和種の繁殖用の素牛導入をスタート。今年8月から種付けが始まり、2018年1月には母牛の登録を開始する。

 また、併行して交雑種の繁殖母牛への受精卵移植による和子牛生産にも取り組み、9月に初めての自家産子牛が誕生している。現在、黒毛和種40頭、交雑種100頭の母牛を飼養しており、2020年までに母牛500頭体制に拡大する計画。

 さつま姫牛は雌牛に特化していることから、生まれた子牛のうち、雌牛は肥育もしくは繁殖用に保留し、雄牛は家畜市場へ出荷販売する予定。1これにより、肥育部門の総頭数は5500頭まで増強され、さつま姫牛の年間出荷頭数は3500頭に増強される見込み。

 繁殖肥育一貫経営への切り替えは全国的に散見される動きだが、技術的な課題が多いほか、繁殖から肥育、出荷販売までに長い期間を要し、資金的なリスクが大きい。無理のない規模と速度で事業の充実を図ることが重要だ。若手の人材活用やIT技術を取り入れながら新たなビジネスモデルの確立が期待される。