2019/11/26

全国農業新聞/日米貿易協定

日米貿易協定の国会審議は12月19日、衆院で採択され、実質的に20年1月1日の実効が濃厚となった。重要な議案にもかかわらず、野党が「桜をみる会」の騒動化に時間を費やし、十分な審議が行われなかったことは残念だが、畜産物の合意はTPP11等の範囲内で、過度な悲観論は不要だろう。

農水省による国内生産額への影響試算は牛肉が約237~474億円、豚肉が約109~217億円の減少。機械的に算出した暫定値で関連対策の論議では有用だが、実際の市場動向の見通しとは視点も目的も異なるものだ。

現実問題として、世界の食肉供給は構造的な変化に直面している。ASFの拡大で、20年の世界の食肉生産量は1割程度減少する。特に中国での食肉不足が深刻化し、国際需給は供給ひっ迫・価格上昇局面にある。すでに豪州産の牛ひき材は現地価格が高騰、現物取引は相場建たずの状態だ。

米国の離脱前の合意と日米協定で異なる点は①牛肉のセーフガード(SG)②日本産牛肉の対米輸出の低関税枠。この2つには米国が「早期」に競合他国と同等の条件確保を「優先」したことが滲み出ている。

別枠設定された米国産牛肉の20年度のSG発動数量は24万2千㌧。18年度の輸入実績を下回る水準で、その後の増加率も小幅だ。初年度からSG発動の可能性が高く、輸入関係者は年度後半になると、いつの発動が最も影響が少ないかを模索しながらの対応に迫られる。

TPP11の現状のSG発動数量は米国離脱前の合意数量で、発動の現実性はない。またTPP11加盟国で輸出が滞る事態や輸出先国の変化で、米国産が増加することも想定されるため、TPP11との調整協議も必要だ。需給安定の観点からは豚肉(従価税部分)で導入された方式の方が公平だろう。

低関税枠(枠内Kg当たり4・4㌣、枠外26.4%)は現状200㌧。前回合意は日本単独3千㌧。今回は豪州・NZ以外のその他(複数国枠6万5005㌧)に組み込まれた。議会承認を必要としない合意との関係を指摘する向きもあるが、この枠はいわば早い者勝ち。低関税で輸出できる数量は南米諸国等との競争になる。

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