全国農業新聞/鉄板焼について

「見栄を張って高級店ばかりに通っているのか?」。これは昨年11月29日にNHKクローズアップ現代+で共演させていただいた寺門ジモンさんに掛けられた言葉だ。  

確かに私のブログには大衆的な店よりも、単価が1万円を超える鉄板焼レストランを紹介する記事が多い。だが、格好をつけて多額を投じている訳ではない。「鉄板焼」という料理が心底から好きなのだ。

食材の外観、目前に迫る調理の躍動感、加熱による色彩と形状の変化、おいしさを予感させる香り、歯ごたえ、舌触り。焼き手との対話に至るまで、語り尽くせない魅力があり、鉄板焼は五感で楽しむ食のエンターテイメントだと確信している。   

鉄板焼といってもスタイルは様々あるが、最大の特徴は素材の個性、鮮度感がダイレクトに伝わる料理だということ。とかく黒毛和牛では個体ごとの印象の違いが顕著に現れる。

例えば、融点の低い霜降り肉は常温に戻すと汗をかき、冷蔵庫から出したばかりの凛とした佇まいは嘘のよう。だらしなく緩み始めた肉を鉄板に置けば、瞬く間に甘美で濃厚な香りが広がる。

飴色に輝く焼き色、火入れとともに隆起する肉の力強さ、飲み下した後の強烈な余韻。言い換えれば、鉄板焼ほど黒毛和牛の醍醐味を満喫できる調理法はないように思う。  

素材の背景にあるストーリーを感じ食事ができるのも魅力の1つ。調理から提供まで、焼き手1人で完結するので「どこで、どんな人が、どのような想いで作ったのか」を聞きながら、産地を訪れたような気分を味わえる。

さらなる楽しみ方は、焼き手による調理や表現の違い。同一のレストランを利用しても、担当する焼き手によって料理の仕上がりも、素材の捉え方や説明もまったく異なるのが面白い。対話しながら調理する鉄板焼は、お客の性格や好みを探りながらの提供になるが、焼き手の技量はもちろん、所作や間の取り方、こだわる点も人それぞれ。

単に経験が長ければ良いという訳でもなく、役者の芸のように成長過程でその時々の良さがある。火入れのタイミングも微妙に異なるため、提供される料理は必ず焼き手の個性が反映されるのだ。 こだわり抜いた素材と技を五感で味わう濃密な時間。凝縮された90分をぜひ試してみてほしい。

全国農業新聞/輸入冷凍牛肉に対するセーフガード(SG)について

8月1日から輸入冷凍牛肉に対しセーフガード(SG)が発動された。EPA(経済連携協定)が結ばれている豪州産、メキシコ産などを除く、米国産、カナダ産、ニュージーランド産などの冷凍牛肉の関税が年度末(2018年3月31日)まで従来の38.5%から50%に引き上げられる。

日本に輸入されている北米産の冷凍牛肉は、バラ系のショートプレートと呼ばれる部位がほとんど。その多くは牛丼チェーンで消化されるほか、食べ放題などの焼肉業態、スーパーの味付け肉、中食(総菜)の原料などに利用される。

「輸入牛肉全体で見ればSGの影響は限定的」との指摘もあるが、ショートプレートを主力に扱う企業にとっては深刻だ。牛丼のように単価の安い商品は、消費者はとくに値上げに敏感。各社とも一定の在庫を抱えており、すぐにでも値上げに踏み切る状況ではないものの、上昇するコストをどう吸収するのか、企業努力にも限界はある。

関税の上がった北米産からSG対象外の豪州産に切り替えるとしても、現地の供給がタイトな中で調達ルートを整えるのには時間を要す。また豪州産の冷凍牛肉はミンチ材などのカウミートが主体。安定した品質をパーツ(1つの部位)単位で大量に調達することができるアメリカンビーフが日本の牛肉産業にとっていかに重要な商材であるかがうかがえる。

 冷凍牛肉ではなく冷蔵牛肉を調達する動きもあるが、ここへきて冷蔵牛肉にもSG発動の恐れが出てきた。第2四半期(7〜9月)に基準数量を上回れば冷蔵牛肉も11月にSGが発動するため注意が必要だ。

仮に冷蔵牛肉で発動されれば、影響は計り知れない。小売で販売される牛肉のほとんどは冷蔵であり、より単価の安い商材に需要が移行することが予想される。結果的に豚肉、鶏肉の価格にまで波及し、食肉消費全体に影響を及ぼしそうだ。

 SGは輸入が急増することにより国内産の相場への影響を食い止めるために発動される制度だが、冷凍牛肉が国内産の牛肉と競合しているとは言い難い。半期ごとではなく、年単位で基準枠を設定するなど、制度の見直しを期待する声も聞かれている。