輸入冷凍牛肉でSG発動/片平梨絵の食肉ウォッチ(17)全国農業新聞

2018年8月1日から輸入冷凍牛肉に対しセーフガード(SG)が発動された。EPA(経済連携協定)が結ばれている豪州産、メキシコ産などを除く、米国産、カナダ産、ニュージーランド産などの冷凍牛肉の関税が年度末(2018年3月31日)まで従来の38.5%から50%に引き上げられる。

日本に輸入されている北米産の冷凍牛肉は、バラ系のショートプレートと呼ばれる部位が多くを占める。その多くは牛丼チェーンで消化されるほか、食べ放題などの焼肉業態、スーパーの味付け肉、中食(総菜)の原料などに利用される。

「輸入牛肉全体で見ればSGの影響は限定的」との指摘もあるが、ショートプレートを主力に扱う企業にとっては深刻だ。牛丼のように単価の安い商品は、消費者はとくに値上げに敏感。各社とも一定の在庫を抱えており、すぐにでも値上げに踏み切る状況ではないものの、上昇するコストをどう吸収するのか、企業努力にも限界はある。

関税の上がった北米産からSG対象外の豪州産に切り替えるとしても、現地の供給がタイトな中で調達ルートを整えるのには時間を要す。また豪州産の冷凍牛肉はミンチ材などのカウミートが主体。安定した品質をパーツ(1つの部位)単位で大量に調達することができるアメリカンビーフが日本の牛肉産業にとっていかに重要な商材であるかがうかがえる。

冷凍牛肉ではなく冷蔵牛肉を調達する動きもあるが、ここへきて冷蔵牛肉にもSG発動の恐れが出てきた。第2四半期(7〜9月)に基準数量を上回れば冷蔵牛肉も11月にSGが発動するため注意が必要だ。

仮に冷蔵牛肉で発動されれば、影響は計り知れない。小売で販売される牛肉のほとんどは冷蔵であり、より単価の安い商材に需要が移行することが予想される。結果的に豚肉、鶏肉の価格にまで波及し、食肉消費全体に影響を及ぼしそうだ。

SGは輸入が急増することにより国内産の相場への影響を食い止めるために発動される制度だが、冷凍牛肉が国内産の牛肉と競合しているとは言い難い。四半期ごとではなく、年単位で基準枠を設定するなど、制度の見直しを期待する声も聞かれている。

放牧酪農で町の活性化、足寄・ありがとう牧場/片平梨絵の食肉ウォッチ(16)全国農業新聞

「町づくりには若者、よそ者、ばか者が必要だ」と話すのは、櫻井光雄さん。北海道・足寄町役場で約40年勤務後、一般社団法人びびっとコラボレーションを立ち上げ、代表理事として新規就農や半農半Xの希望者向けにサポートセンターを運営する。

市町村として日本一の面積(1400キロ平方メートル)を誇る足寄町は、山林に覆われた傾斜地が多く、人口は7000人ほど。寒暖差が大きく、長い日照時間が放牧環境に適していることから「放牧酪農」を柱に新規就農支援、町づくりを推進。放牧酪農による新規就農者はすでに15組誕生し、現在、3組の就農希望者が待機する。

足寄の酪農放牧の先駆的な事例が「ありがとう牧場」(吉川友二牧場長)。長野県出身の吉川さんは北海道大学卒業後、ニュージーランドで酪農を学び帰国し、2000年に足寄に移住。2001年に新規就農し放牧酪農をスタート。

現在は100ヘクタールほどある放牧地と採草地を活用し、放牧酪農により40~50頭を搾乳。放牧地は区画し、草の成長に合わせて朝、夕の搾乳後に牧区を順番に移動させ輪換放牧。農薬や化学肥料を使用せず、栄養価の高い草を牛に与える。

3〜4月の春に分娩を集中させる季節繁殖を行い、12月末には全頭を乾乳。草のない1〜2月は乾乳期にすることで通年放牧を可能にしている。1頭あたりの搾乳量は年間約5000kg。濃厚飼料を控えることで低コスト化が図られ、搾乳50頭の規模でも経営が十分に成立するという。

また、生まれた子牛のうち雄は牧草肥育により「サラダビーフ」として商品化し、インターネットで通信販売。2013年には搾乳舎に隣接したしあわせチーズ工房を開設。牧場の生産物を年に3回届ける会員制度(年14000円)を設け、顧客がついている。

少子高齢化による離農、過疎化が進む市町村では、新規就農を促す環境整備や支援の充実が課題だ。農水省によると、平成27年の新規就農者は約6万5000人で、新規参入者は3570人にとどまる。農業未経験者が安定した収入を確保し、就農支援として助成される5年後も経営を継続できるビジネスモデルの確立が定着の鍵。放牧酪農により町の活性化を図る足寄の今後が注目される。

片平梨絵の食肉ウォッチ(15)全国農業新聞/北海道オーガニックビーフ振興協議会が発足

北海道で有機による肉牛生産に向けた取り組みが始まろうとしている。今年4月、放牧や自給飼料多給により牛肉生産を行っている農場が結集し、「北海道オーガニックビーフ振興協議会」を発足させた。

参加したのは、前述の北里大学FSC八雲牧場のほか、北十勝ファーム(足寄町)、高橋ファーム(えりも町)、榛澤牧場(釧路市)、ワタミファーム弟子屈牧場、西川牧場(様似町)の6農場。

協議会では今後、有機JAS認定の取得支援、オーガニックビーフの供給体制の確立、増産のための施設更新の後押しなど生産から販売まで連携した態勢構築を目指す。

国内の有機畜産物の認定制度(JAS規格)が制定されたのは平成17年。有機畜産物のJAS規格では、「飼料は主に有機の飼料を与える」「野外への放牧などストレスを与えずに飼育する」「抗生物質等を病気の予防目的で使用しない」「遺伝子組換え技術を使用しない」など厳しい飼育条件がある。

このためJAS取得農場は津別有機酪農研究会(牛乳、牛肉)、北里大学獣医学部付属FSC八雲牧場(牛肉)、松本牧場(生乳)、大地牧場(乳)、内外食品(鶏肉)、農業生産法人黒富士農場(鶏卵)の6カ所のみだった。

農水省生産局農業環境対策課によると、世界のオーガニック市場は拡大を続け、トップの米国の販売高は3.2兆円、EUも3.1兆円。年率6~8%の伸びを見せている。一方で日本の市場規模は欧米より1ケタ小さく、約1300億円という。

昨年12月にはイオンがフランスのオーガニックスーパー「ビオセボン(Bio c’Bon)の日本1号店をオープンさせた。売り場にはフランス直輸入のBIO(ビオ)ワインやチーズ、旬の有機野菜、豪州産のオーガニク牛肉、明治オーガニック牛乳など内外の有機JAS規格認定商品のほか、JAS認定に向けて取り組んでいる農家の商品も並ぶ。

ライフコーポレーションも昨年6月に「オーガニック」、「ヘルシー」をキーワードとする新業態の展開に乗り出すなど食品メーカーも有機JASの動きを加速させている。2020年東京五輪を視野に国内市場の拡大が予想され、オーガニックを巡る動きが活発化しそうだ。

片平梨絵の食肉ウォッチ(13)全国農業新聞/WAGYU輸出拡大、ロイン系以外の商品化が鍵

2016年の農林水産物・食品の輸出額は7503円(前年比0.7%増)。13年から4年連続で増加し、過去最高を記録。当初の中間目標だった7千億円を上回った。政府は農産物輸出額1兆円の達成目標を、当初の20年から19年に前倒しすることを昨年8月に閣議決定している。

16年の畜産物の輸出額は25%増の294億円に達した。中でも牛肉は各国での市場開拓に向けて国を挙げて『WAGYU』プロモーションを積極的に展開してきたことから、香港、米国、シンガポールなど世界30カ国以上に輸出され、輸出額は136億円、輸出量は1909トンまで拡大した。

最近は黒毛和牛だけでなく交雑牛の輸出も散見されるが、仮に輸出された牛肉の全量が和牛だと仮定した場合、和牛の国内生産量約14万トン(16年速報値)のうち輸出シェアは1.3%。

しかし、輸出される牛肉は、その多くがリブロースやサーロインなどロイン系が主体。セット輸出は希だ。和牛1頭あたりのロイン系の総重量を60kgとして試算すると、輸出比率は7%程度に相当する。

16年の和牛出荷頭数約44万頭のうち約3万頭分のロインが輸出用に仕向けられたと推測される。輸出向けの牛肉は格付4等級以上が主体であり、高級和牛に占める輸出シェアはさらに高い。

国が掲げる19年の品目別輸出目標で、牛肉は輸出額250億円、輸出量4000トンと現状のほぼ2倍。ロインのみの単純計算では輸出に仕向けられる和牛は6万6000頭、年間と畜頭数の約15%程度までシェアが上昇する計算で、牛枝肉相場に及ぼす影響力も増大する。

もちろん、これまでのようなロインに偏重した輸出では目標量の達成は難しいだろう。バラやモモなどの多部位の輸出拡大が必要だ。それを実現しないと、部位別の需給バランスが崩れ、高値疲れが具現化しつつある国内需要にもマイナス作用が大きくなる。

すき焼き・しゃぶしゃぶ用など和食提案にとどまらず、焼肉やステーキ(モモ系活用)などの商品化技術はもちろん、現地の食文化、料理に合わせた提案で、輸出の多部位化を図ることが不可欠。トータル・カーカス・ユーティリティゼーション=1頭すべてを効率的に活用することは、ビーフビジネスの永遠の課題、世界共通のテーマだ。

片平梨絵の食肉ウォッチ(12)全国農業新聞/適サシ宣言騒動に思う

ひと月ほど前、浅草の老舗すきやき店による「適サシ」宣言が話題を呼んだ。サシの入り方が過剰ではない「適度な霜降り肉」(5等級に近い4等級)を「適サシ肉」と呼称し、自店で提供していくことを宣言したもの。

各種メディアに取り上げられ「脱霜降り」など、「赤身vs霜降り」を対立軸で語る極端な論調が目立ったが、適サシ宣言の本質は、黒毛和牛の大きな特徴である霜降りを否定する意図はけしてなかったように思う。

同店は「脂肪の融け方が良い十分な月齢(30カ月)まで肥育した和牛雌の脂はサシの入り方が細かく、胃もたれせず、香りの良いすき焼きが実現できる」とも指摘している。霜降りは脂肪の量ではなく、質が重要であることを訴えたかったのであろう。

そもそも、黒毛和牛の脂質は口溶けの良さ(融点の低さ)に象徴され、脂肪の融点は血統と出荷月齢が大きく影響する。紐解くと、牛の脂肪酸を不飽和化する酵素(ステアロイルCoAデサチュラーゼ=SCD)は、生後13カ月齢以降に活性化する。

牛の体が成長している間は、成長ホルモンによりSCDが抑制され、その後、成長が止まる頃に成長ホルモンの分泌が低下し、SCDが活発化し不飽和脂肪酸が蓄積していく。月齢が長くなるほど脂肪に含まれる不飽和脂肪酸の割合が増加し、脂の融点は低下するという訳だ。

こうしたメカニズムが明らかになる一方で、牛肉の生産現場では素牛や飼料価格の高騰により肥育農家の経営が圧迫される中、効率化が進む。短期間で霜降りが入り、重量をとれる増体系の血統が主流となりつつある。また、全国的な肉牛不足により前倒しで出荷する傾向も否定できない。

飲食店が「どのような肉を、どのように提供するのか」を明確にして提供することは大切なことだ。しかし、黒毛和牛の生産量が減少を続けている中で、変わらない品質を調達し、提供し続けることが容易ではなくなってきた。

牛枝肉相場が上昇の一途を辿る中で、提供すべき理想の肉を長期的にどう確保していくのか。牛肉関係者にとって大きな課題となっている。

全国農業新聞/宮崎牛の認知度

このところ首都圏で宮崎牛を目にする機会が増えたように思う。背景には和牛のオリンピック「全国和牛能力共進会」で内閣総理大臣賞を3大会連続受賞したこと。海外への輸出拡大で世界的な認知度も高まった。

 今年10月に開催された「東京食肉市場まつり」では初の推奨銘柄に選ばれ、2万8千人以上が来場する盛況ぶり。県産品の販促を担う県東京事務所には「宮崎牛の問い合わせが増えた」(北村明彦主任)。  

11月1日からはホテルオークラ東京・鉄板焼さざんかで宮崎牛フェアがスタート。1ヶ月にわたり宮崎牛はじめ県の食材・調味料を織り交ぜたコース料理が提供される。食材選定には私も協力させていただいた。

フェアでは複数の生産者が手がけた宮崎牛が供されるが、第一弾で投入したのは松山牧場(都城)のヒレ、サーロイン。松山牧場は私が注目する県内肥育農家の1人。雌牛に負けない去勢牛の肉質をめざし、但馬系の血統にこだわる。

効率化のため規模拡大を図る農家が主流だが、三代目の松山龍二さんは「頭数を絞り、手を掛けたい」と話す。現在の飼養頭数は約100頭。地元繁殖農家と連携し、モネンシンフリーに取り組み、粗飼料も7割は地元で自給し、濃厚飼料も地元や国内で調達したいとの夢を持つ。

出来栄えの良い牛は半丸分を自ら買い上げレストラン等へ納品するほか、地元のイベントで串焼きにして販売。消費者と顔が見える関係を築き、裏切らない肉を届けようと奮闘している。

フェアの味(み)どころステーキだけはない。野菜は自然生態系農業を目指す綾・早川農苑のものを採用した。無農薬・無化学肥料で育てられた野菜は1つ1つの味わいがとても濃厚だ。

ステーキに添える調味料も面白い。霧島の蕎麦屋・がまこう庵の柚子胡椒を用意。一般的な緑や赤い柚子胡椒とは違い、完熟した柚子と唐辛子を使うため黄色い。米麹を加えることで旨味が増し、味に丸みがあり、肉料理の格が一段上がる。

フェアを通じ、宮崎牛をはじめたくさんの作り手の想いと食材の魅力が多くの方に届くことを楽しみにしている。