“美味しい肉づくり”への想い貫く石垣島きたうち牧場の挑戦

農業生産法人㈲石垣島きたうち牧場 北内毅社長

沖縄・石垣島の大自然の中で、美味しさの遺伝子をもつ血統を選び抜き雌牛だけをじっくりと36~40 ヶ月まで長期肥育された『石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ』。すっきりとした脂の滑らかさ、赤身肉の深い味わいは、ホテル、レストラン、鉄板焼のシェフらに高い評価がある。

手掛けるのは、毎日でも食べたくなる美味しい牛肉づくりを目指し、沖縄・石垣島で黒毛和牛の繁殖~肥育~卸~レストランまで自社で生産供給する仕組みを構築する石垣島きたうち牧場(北内毅社長)。石垣島で焼肉3店舗を手がけるほか、東京・銀座の「鉄板焼石垣島きたうち牧場銀座店」、大阪の「塊肉 石窯焼 肉’Kitchenきたうち 長田店」など、“本物の美味しさ”を切り口に、直営6店舗を展開する。

但馬系雌牛の和牛専門卸を経営し、神戸ビーフでも雌牛に特化して取り扱う北内毅さんが、石垣島で生産事業をスタートしたのは平成20年のこと。焼肉店、食肉卸から肉牛生産へと川上にさかのぼってきた理由はただ1つ。「自分で食べて心から美味しいと思える牛肉を提供したいから」—。

種雄牛の造成から牛肉の出荷までにかかる年月は8~10年。全国的に黒毛和牛の短期肥育化が進み、生産の効率化が加速する中、美味しい肉づくりへの信念を貫き、長い歳月、多大な資金を投じ挑戦を続ける北内社長に想いを聞いた。

北内さんが追究する美味しい肉とは?

私が24年前にこの業界に入った頃は、お肉の美味しさよりも、霜降り肉、いわゆる「A5—12」が1番良い肉と評価され、食肉卸売業者の多くが競って霜降り肉を買っていました。ところが、実際に「A5−12」の肉を自分が食べてみるとどうか。数切れを口にしただけで脂っこさで胃がもたれ、たくさん食べられなくなってしまう。「お肉って美味しい食べ物なのだろうか?」という疑問をつねに抱いていました。
そんなある日、神戸市場で神戸ビーフを買う機会があり、実際に食べてみると感激しました。脂質、肉色、これまで食べてきた肉とはまったくの別物でした。「これは美味しい!しかも、もたれない!もっと食べたい!」。これが私の美味しいお肉への追求の始まりです。

私が美味しいと感じた肉、それが和牛のルーツである但馬牛です。但馬牛というと一般に兵庫県産の銘柄牛として知られていますが、畜産業界では兵庫県産に限らず、但馬の血統の純血を引き継ぐ牛肉は産地を問わず総称として『但馬牛』と呼ばれます。
但馬牛の特長は①脂の融点が低く②赤身に深みがあり③焼いたときに広がる甘く力強い香り。
余韻があり、毎日でも食べたくなるような肉です。

しかし、それほどまでに美味しい肉にも関わらず、但馬牛の流通量はとても少なく限られています。なぜなら、但馬牛は遺伝的に体格が小柄で枝肉重量が小ぶりな上に、発育のスピードが緩やかで長期間にわたる肥育が不可欠だからです。端的にいうと、生産性が悪くコストが高くつくため、但馬牛を飼育する肉牛農家は非常に少ないのが現状です。

さらに、この十数年のうちに、国内に流通する和牛は短期間で体重が大きく育つ「増体重視型」の血統が主流になりました。穀物価格の高騰、素牛高・・・コスト上昇が肉牛農家の経営に重くのしかかる中では、増体重視型の牛が増えてしまうのは仕方のないことだと理解しています。けれども、増体重視型の血統では私のめざす美味しい肉に仕上げることは難しく、お客さまに自信を持って伝える肉が少なくなってしまった。

農家さんに大きな負担が強いる但馬牛の生産を容易に依頼することはできません。
リスクが大きすぎます。
そこで、当時、焼肉店を経営していた石垣島を拠点に、自ら肉牛生産に乗り出すことを決意しました。

美味しい遺伝子を持つ雌牛だけを健康的に長期肥育

「牛肉の美味しさを決定付ける要素の8割は血統だと考えています」と北内さん。
石垣島きたうち牧場では、遺伝子解析により、但馬系の血統の中でもより美味しさの優位性が高い系統に特化した種雄牛や繁殖用母牛を繁養することで美味しい系統の黒毛和種を安定生産する仕組みを築く。また、去勢牛に比べると、雌牛の肉は脂質の融点が低く、肉質に含まれる甘み系アミノ酸が優位であることから、雌牛のみを出荷月齢36ヶ月以上〜40ヶ月まで長期肥育している。

石垣島きたうち牧場・繁殖牧場

繁殖農場では純血但馬の種雄牛を自社で保有

石垣島と与那国島にある繁殖部門では繁殖母牛200頭、純血但馬の種雄牛を自社で保有。兵庫県内No.1の成績の繁殖母牛を所有することで美味しさこだわったスーパー種雄牛の造成にも取り組んでいる。生まれた子牛のうち、雌牛は肥育部門で肥育するほか、もしくは繁殖母牛として保留する。きたうちプレミアムビーフは雌牛だけなので、去勢牛は原則、グループの山口きたうち牧場(山口県美祢市)へ出荷し肥育している。

美味しさの遺伝子をもつ種雄牛①「丸菊照」(丸福土井ー福芳土井ー照長土井)
美味しさの遺伝子を持つ種雄牛②「芳鶴土井」(福芳土井ー鶴丸土井ー菊安土井)
美味しさの遺伝子をもつ種雄牛③「丸宮福」(丸宮土井ー福芳土井ー菊俊土井)

肥育農場では麦主体のエサでビタミンを切らず健康的に

肥育部門では、黒毛和種200頭を肥育。但馬牛の血統50%以上の雌牛だけを肥育することとし、その半数は自家産もしくは但馬家畜市場から素牛導入した純血但馬牛。残りの半数は、自家産もしくは八重山家畜市場から素牛導入した八重山産となっている。

導入された子牛は、大麦主体のエサを使うことで牛に負担をかけずに、じっくりと飼い込んでいく。きたうちプレミアムビーフの出荷月齢は36カ月以上〜40ヶ月と、一般的に黒毛和牛の平均(28ヶ月)に比べ半年から1年程度長い。これは、時間をかけて肥育することで仕上がった肉の脂の融点が低くなり、赤身に蓄積されるアミノ酸が増加していくため。
最後までビタミンを切らずに健康的に肥育し、霜降りを無理に入れることはしない。
牛に負担をかけると脂質が低下し、内臓廃棄にもつながってしまうためで、「大切な命だからこそ、どの部位も無駄にせず、余すことなく美味しくいただきたい」との考えだ。
丁寧に肥育した牛は、出荷月齢36カ月以上は「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ」として、出荷月齢40カ月以上は「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ40」として出荷される。

石垣島きたうち牧場・肥育牧場
ビタミンを切ることなく、健康的に。こまめな観察を徹底し大切に育てていく。

国内初、繁殖肥育一貫でNon-GMO飼料、粗飼料は100%自給

究極の牛づくりを掲げ、安全性にも徹底配慮する。Non-GMO飼料(=非遺伝子組み換え飼料)の取り組みも進めてきた。繁殖から肥育に至るまで完全にNon-GMO飼料へと切り替えを図り、2021年夏から石垣島きたうち牧場プレミアムビーフは自家産について生まれてから出荷されるまで完全にNon-GMO飼料で育てた牛として供給される。繁殖肥育一貫してNon-GMO飼料で育てているケースは国内初となる。
そして、美味しさや安全の追究と平行して進めているのが、循環型農業への取り組み。日本で肉牛の食べる粗飼料(牧草など)を自給することは極めて難しいことだが、石垣島は日照時間が長く、気候が良くため年に5〜6回も草を穫ることができる。石垣島の恵まれた自然環境を生かし、農場近郊に自社で約3万坪ほどの採草地を管理し粗飼料のほぼ100%を自給している。

約3万坪にわたる採草地と水田を保有し、牧草と稲わらを生産。粗飼料のほぼ100%を自給している。

美味しさのための5つのこだわり

石垣島きたうち牧場で生産する「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ」のこだわりは5つ。
①美味しさの遺伝子
②雌牛だけ
③通常の黒毛和牛に比べ半年から1年も長い肥育期間
④完全Non-GMO飼料、こだわりのエサ
⑤たっぷりの愛情、こまめな観察を徹底

水田で栽培したお米は直営レストランで提供し、稲わらは牛たちに与えている。

石垣島きたうち牧場

牛肉の美味しさを決定付ける最も重要な要素である「血統」。この「血統」(遺伝子)に徹底してこだわり、遺伝子解析や食味検査により美味しさとの相関性を追究。種雄牛造成~繁殖~肥育~草づくりまで自社牧場で行うことで血統を統一し、個体ごとの品質のばらつきを抑えています。焼肉等直営レストランを経営することで効率良く多部位を消化する仕組みを構築し、グレードの高いロイン系を安定供給することを可能にしています。

【赤珊瑚(あかさんご)・Red Coral】

「いつ食べても美味しいお肉をお届けしたい―」。この想いを胸に誕生したのが「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ」です。美味しい和牛を安定供給するために遺伝子解析などの手法を取り入れて、美味しさの研究を積み重ねてきました。“サシ”は和牛を代表する特徴の1つですが、無理にサシを入れた牛肉の脂では胃もたれがしたり、たくさん量を食べることができません。「石垣島きたうち牧場プレミアムビーフ」は、通常の和牛に比べ脂の融点が低いため軽やかで食べやすく、赤身肉の旨みが深く、赤身と脂身のバランスの良さが特徴です。ぜひ1度お試しください。(北内毅社長)

生産概要

農場農業生産法人㈲石垣島きたうち牧場
代表者北内毅
生産地沖縄県石垣市
品種黒毛和種、雌のみ
飼養規模繁殖200頭、肥育200頭
出荷頭数年間72頭
出荷月齢36カ月~40ヶ月以上
と畜場㈱ハ重山食肉センター

佐々木譲さんの「岩手水沢牛」

豊かな水、土壌が織りなす田園風景。若い感性が伝承する昔ながらの牛づくり。

佐々木譲さん

美しい自然、肥沃な大地が育む水沢牛

東北有数の和牛産地として数多くの銘柄牛を輩出してきた岩手県奥州市。とりわけ佐々木牧場のある水沢地区(旧水沢市)は北上山地と奥羽山脈に挟まれ、中央に北上川が南流し、東部は北上山地に続く丘陵地であり、県南の穀倉地帯として豊かな水と肥沃な土壌に恵まれた美しい田園風景が広がります。

「岩手水沢牛」の復刻に注力

市町村合併による銘柄牛の総称化が進められる中、佐々木譲さんは“昔ながらの牛づくり”を伝承しながらも若い感性を発揮し、「岩手水沢牛」の復刻に力を注いでいます。昔ながらの牛とは、小ぶりながらもしっかりと長く飼い込いこむことで深い味わいが醸し出される黒毛和牛。全国的に増体型の大きな牛が主流になる中、美味しさに優位のある但馬系の血統の雌牛にこだわり長期肥育しています。

大麦主体の自家配合飼料で上質な霜降り

ただ長く飼えば美味しい肉に仕上がるという訳ではありません。素牛導入後は牛の能力を見極めながら、先代から受け継ぐ麦主体のエサを自家配合飼料し、約2年間かけて、じっくりと飼い込んでいきます。出荷月齢は32~36ヶ月。佐々木さんの水沢牛は飼料にトウモロコシをほとんど使っていません。脂の融点が低く、上品な霜降りが特徴。とろけるような口溶けが食べる人を魅了します。

生産者の声

自家配合の飼料、出荷月齢の長さに徹底してこだわっています。自家配合飼料は手間がかかっても季節や環境により細かい調整ができるのが利点。また、麦エサはトウモロコシ主体のエサに比べ、その味わい、口溶けの印象が格段に向上します。効率重視の畜産経営が主流になりましたが、「岩手の佐々木は小さいけれど良い牛をつくる」という先代から続く評価を裏切ることのないよう、昔ながらの技術を継承し、職人であり続けたい。(佐々木譲さん)

生産概要

農場岩手県奥州市水沢区、江刺区
代表者佐々木譲
生産地岩手県奥州市
品種黒毛和種、雌のみ
飼養規模肥育230頭
出荷頭数年間110頭
出荷月齢32カ月~36ヶ月
と畜場東京食肉市場